役に立つ研究

この大学は、どこの部局も、オープンキャンパスにはなかなかに力を入れているらしく、あまり悪い評判を耳にしたことがない。僕が高校生のときに、こんな行事があったとしたら、面白くて仕方がなかっただろうと想像する。今となっては、オープンキャンパスが本物の「大学祭」で、大学祭のほうは、何か別の団体の催しのような感さえしないでもない。もし、大学祭の趣旨が「大学のアクティビティを広く社会に公開して、市民との交流を図り、社会の中であるべき大学像を大学人自身も再確認する場」であったとすると、オープンキャンパスのほうが、それに向かって遥かに積極的にアプローチしているように思えてならない。でも、そういうのを、事務方や教員の仕切りで行うのは、やっぱり大学祭らしくはないけれど。

オープンキャンパスで展示を行うと寄せられる定番の質問に「この研究は何の役に立つんですか?」というのがある。これは、所謂「シロウト質問」の代表ではあるけれども、どんな偉い先生の、どんな立派な研究に対しても発することのできる、一般性のある問いである。

でも、僕なんぞが言うまでもなく、役に立つ=マイナス面もある、という等式は普遍的に成立するので(反例があれば教えてください)、「役に立つ」研究が、ただちに「善いこと」をしている、とは言えない。

世の中に対して多少の申し訳けなさを感じつつも、できるだけ、役には立たない(=害にもなりにくい)研究をしているつもりが、びっくりさせられた経験がある。その頃僕は、ガラスや岩石を破壊するとき、破片の大きさにどのような統計的な性質が表れるのかを調べていて、カリフォルニアで開かれた国際会議のポスターでその結果を発表した。客の入りは芳しくなかったけれども、拙い僕の英語を熱心に聞いてくれる研究者がいて、話が盛り上がってきた。ひとしきり説明をした後で、その方にどんな研究されているのか尋ねたところ、「詳しくは言えないが、軍で戦車の装甲を破壊する砲弾の開発をやっていて、あなたの研究は非常に興味深い・・・」

役に立たないはずの研究だったが、米軍の兵器開発にも役立っていないことを祈るばかりである。


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