科学俳句

いつものように、生協の食堂で同僚たちと昼食を食べながら、なんだかんだと無駄話をする。

私は全学の情報科目を毎年担当しているが、その科目はシラバスが標準化されていて、原則的にはそれに沿って授業を進めなければならない。その中に、文書作成や情報倫理など、もともと「理系」の私にとって、ちょっと教えにくい内容が盛り込まれている。たとえば、文書作成の際にTeXの使い方だけ教えるというのではあまりに専門学校的だし、わざわざ手取り足取り教えなくても必要ならば本を見ながら自分でマスターできるだろう。

ソフトウェアの操縦方法よりも大切なのは、文章(論文)を書く際の作法とか心得のような、作文以前のところにあると思うが、そうすると、入学早々にそのようなことばかり説教されても、具体的なイメージやモチベーションがわかないだろう。大学4年間で学生はどんどんと成長する(はずだ)。一般教養的な科目をその期間のどのタイミングで開講するのが最も効果的か、きちんと検討する必要があるかもしれない。

ともあれ、文書作成や情報倫理について、何をどう教えたらよいのか、真面目に考えれば考えるほどよく分からなくなってくる。とりわけ情報科目は「読み・書き・そろばん」を1科目ですべて網羅しなればならないので、我々には小学校の教員のようなスキルが求められているとも言える。

文書作成について、そんな(ような)話をしていると、同僚のひとりが、

「(いまどきの学生は)だらだらと長い文章を書くことはできるけれども、要点をきっちりとまとめるのは苦手のように見受けられる」

とおっしゃった。確かにそういう傾向はあると思う。さまざまな情報を整理して提示するのは、論文を書く上でも重要なので、卒論や修論まで待たずに、早い時期から繰り返しトレーニングしておくことは大事だろうと思う。

入試参考書などでは、要点は色分けされたり、枠で囲んであって、自分で努力して整理しなくても、それをそのまま記憶すれば良い。けれども、大学での勉強はそうはいかない。そこで、

「じゃあ、講義の内容を、毎回俳句にでもまとめさせたらどうですか? 科学俳句っていうかぁ、そういうの。」

と提案してみた。科学に季語はあまり馴染まないので、代わりに「分野語」を必ず用いることにする。

その場で科学俳句の創作を試みたけれど、「π電子、σ電子もあるけどね(K氏作)」、みたいな調子で、一同、己の才能の無さを改めて認識するに止まった。


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