足止め

東大での研究会が終わったあと、帰宅があまり遅くならないようにと、そそくさと東京駅に向かった。ちょうど、春一番が吹き荒れていたので、連れの共同研究者に「こりゃー、架線に何かがひっかかたりして、ダイヤが乱れたりするんじゃないかなぁ・・」などと、テキトーな予言をしたら、ホントにその通りになってしまった。

幸いにも座席を予約してあった列車がホームに入ってくれたので、出発までの待ち時間の間、座席に深く腰を下ろして、隣の共同研究者とビールやワンカップをぐいぐいと酌み交わし始めた。2時間以上遅れて出発した頃には、もう完全に出来上がった状態。上野から乗り込んできた全く見知らぬ一行とも合流してさらに宴会は続き、我々の一角だけが、昔の急行八甲田や急行松島のような雰囲気となってしまった。周りのお客さん、ごめんなさい。

予定より大幅に遅れるも、無事仙台駅に到着し、地下鉄、タクシーと乗り継いで自宅に向かう。普段よりも気分が高揚していた所為か、タクシーの運転手に、あれこれ話しを振ってみた。その運転手さんは、土木工事関係の会社で測量を担当していたのだそうで、サウジアラビア版の「国土地理院5万分の1地図」のような地図を完成させるために、現地で働いていた経験があるとのこと。サウジでは酒は一切禁止らしく、たまの休暇に、カイロなどに出かけて酒を飲んだり、美しい女性を目にするのが、楽しくて仕方がなかったらしい。在外勤務は大変なことのほうが多かったけれど、お金を貯めて100万円のピアノを買うことを目標に、何とか頑張れたのだそうだ。

その後の会社での仕事は、膨大な残業など、過酷なもので、さすがにもう体が持たないからと、タクシー運転手に転向したらしい。そうやって手に入れたピアノは、ご本人はあまり練習する暇もなくて、娘さんがよく練習していたそうだけれど、今ではもう殆ど弾かれることもない、と、ちょっとしんみりした様子で、運転手さんは語ってくれた。


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