僕が大学院の5年間を過ごした研究室は、そこに集う面々の人間関係がすこぶる良好、というわけでもなかったけれど、夏は海や山に、冬はスキーにでかけ、特に行事というほどでなくても、テニスや卓球をやったりと、それなりに交流の機会が多かった。夏と冬に研究室で合宿するのは「当たりまえ」のこととして、先輩から後輩に申し送られ、大学の研究室というのはそういうものだと、特に疑問も抱かなかった。
今となっては、どこを訪れたのかさえ記憶もあいまいになりつつあるが、思い出のベスト3は以下のとおり:
1.冬のスキー合宿で山形蔵王に出かけた。スキーウェアや道具は、先輩のお古を借りて滑っていた。蔵王で有名な「横倉の壁」に連れていかれて、かなり腰は引けていたが、無謀にもチャレンジしたところ、あっけなく転倒して、下まで転がり落ちる。途中で、スキーのエッジが左耳に当たって、耳たぶがまっふたつに割れた。血を流しながら診療所まで降りて仮の処置をしてもらい、その後すぐに車で山形の外科医まで運ばれ、何針も縫われる。生まれて初めての外科手術。その夜、アパートで独りじっと痛みをこらえながら過ごした。
2.同じく、冬の山形蔵王。助教授と一緒に、連絡路から大きなゲレンデに移動していたところ、合流地点で、その助教授が他のスキーヤーと衝突して、文字通り、吹っ飛ばされた。しばらく動かなかったので、まさかと思い駆け寄ると、きょとんとして様子がおかしい。衝撃で短期記憶がトンでしまったらしく、何故、自分がそこに居るのかも判らない。とっさに「ボルツマン定数が言えますか?」と尋ねたとろ、「僕はランダウで勉強したから、1だ」との回答。ちょっと安心した。
3.夏の合宿で、牡鹿半島方面に出かける。ほとんどが岬の近くの民宿に泊まるなか、助手と僕と先輩の三名だけ、(民宿の費用を浮かすのが目的で)庭にテントを張り、一夜を過ごすことになった。キャンプ気分を味わうつもりが、夜になると激しい雨が降り出し、周囲は水浸し。救命ボートで大海原を漂流しているような状態になってしまう。屋根のかかった建物のありがたさが身にしみた。
こうしてみると、ひどい目に遭ったり、良くない事件が発生すると、記憶のより深部に「思い出」として焼きこまれるのであろうか。その点では、今年の夏の研究室合宿はなかなかに成功であったと言えるかもしれない。何故なら、
ふと、PPMが歌っていた All my trials が頭に浮かぶ。次回の合宿も楽しみだ。