物理に夢中

1・2年生を対象にした「物理に夢中」という講演会で話す機会があった。物理系に入学した学生達でも、案外と物理学がいま何を研究対象としているのかを知らなかったりするので、研究分野毎の簡単なオリエンテーションみたいな機会として企画されたものだ。

今回僕とペアだったのは、素粒子理論のMさんで、宇宙研究の現在や素粒子物理について大変分かりやすく説明された。十分な時間がなかったのが(僕自身が)残念なくらいだった。僕のほうは、零細研究室で細々やっている研究を紹介しながら、「物理というのは素粒子とかばかりじゃなくって、物性という分野もあって、こちらも結構面白いんだぞ」とできるだけアピールしておいた(つもり)。そうしたら、質問の時間に、「これまで、物性というのがあることを知りませんでした」、と正直に告白する学生があって、やはり物性の認知度の低さが再確認された。

思えば、パソコンだってテレビだって、世の中を便利にしてくれている仕掛けの多くは、物性物理学をその基礎にしてデザインされている。けれども、フツーの人にとってそうしたモノは工学の成果なのであって、基礎科学の寄与については誰もあんまり気にしない。物性物理(の一部)は、産業界の黒子みたいなものなのかもしれない。

僕が学生だった頃には、研究室紹介やらキャリアパスやら就職相談やら履修面談やら、そういった学生へのケアはほぼ皆無であったように思う。その頃の先生方は、「大学生ともなればもう大人なんだから、教員があれこれ指導する必要もないだろうし、自立のためにも、むしろ放っておいたほうがよいくらいだ」、ということにして、積極的・意識的に現実逃避してきたのかもしれない。

「物理に夢中」の準備をしている間は、あまり物理に夢中になれなかったりもするけれども、私なんぞが夢中になるよりは、若い方々に夢中になってもらったほうがずうっとマシであることくらいは、分かっているつもりだ。


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