Impact Fragmentation: Introduction

破壊現象

真新しいチョークを箱から取りだして,両手でへし折る実験をしてみよう. 小枝を折る時のようなやり方で力を徐々に加えていくと, いずれ円柱の径方向にチョークは割れる. 定まった位置で割るためには,ガラスを割るときに ガラス切りを使うように,チョークの表面をカッターナイフで ほんのわずか削ればよい. どの程度の変形を加えるとこの小さなキズ(初期亀裂)が進行を 始めるかという問いは材料強度を知る上で重要であり古くから 調べられてきた. この問題は今世紀の前半にA.A.Griffithによって, 変形による弾性エネルギー変化と亀裂進行による界面エネルギー生成の釣り 合いという形で定式化され,今日まで信じられている.

次に,割れたチョークの破断面をよく観察してみよう. 亀裂が発生した点からしばらくは断面は円柱の軸に対して垂直な面に 沿って進んでいるが,亀裂の進行とともにその面上からずれ始め, しかも表面の凹凸の程度が増しているように見える (この凹凸はガラス棒などで実験するとさらに顕著である). 割れ始めが軸に鉛直な亀裂で始まるのは,引っ張り方向の応力が 最大となる面が割れたためと理解できるが,その後の亀裂の進展 の仕方は存外複雑である. 物が割れ始めてから後の振舞については,実のところ 分かっていないことが多いのである. 例えば,亀裂は表面波(レイリー波)の音速以下で 進行すると考えられているが,その速度がどのようにして 決まるのかはなお今日的な研究課題の一つであるし, 進行する亀裂の安定性についても然りである.

一個の亀裂の進展条件や亀裂進行のダイナミクスは 興味深い問題であるけれども,我々が日常目にする破壊現象というのは さらに捕らえどころがなくて「汚い」印象を受けることが多い. 先程のチョークをコンクリートの床に落としたり 叩きつけてみると,チョークは粉々に砕け,大小様々の破片が 床に飛散するであろう. 硬くて脆い物体が壊れる様子は,むしろこうした実験でのほう がしっくりと再現されているのではないだろうか? 一本の亀裂の進行を議論するのに較べ,この種の衝撃(衝突) 破壊はさらに複雑である. チョークが床に衝突することによって衝突面(点)近傍で瞬間的に大きな 歪みが生じ,それが周囲に伝搬するうちに次々と亀裂が発生して 粉々になるには違いない. けれども,そこに何か一般性を見いだすのは困難に思える. しかし,こうした言わば手荒な破壊の結果生じる破片の サイズや質量を丹念に調べると,物質や系の大きさによらない 統計則が得られる場合がある. 本稿では,衝撃や衝突による破壊で生じる破片のサイズ分布と その背後にある物理について,実験やシミュレーションによる 結果を交えながら紹介したい.

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© Yoshinori Hayakawa (1996,1998)