Lecture on Fractals: Multifractal

マルチフラクタル

フラクタル分布の一般化次元

nの有界な領域上で定義された測度 μ(x)>0 (x∈X⊂Rn) を考えよう. ただし,μ(X)=1とする. このとき,μのサポートXそれ自体がフラクタル集合であっても構わない. Xを覆うサイズδのボックスの集合{Bi}上の測度を μ(Bi)と表記し,全てのボックスに渡る以下の総和を定義する.

(3-1)
μ(Bi)を状態Biの占有確率と解釈し,ハミルトニアン をーlog Biに,逆温度をqとみなすと,これは統計力学で言 うところの分配関数に相当する.

このZδ(q)によって,分布のq次モーメントに関係したフラクタル 次元

(3-2)
が定義ができる.D(q)はボックス次元(フラクタル次元)を 一般化した次元であって,一般化次元(generalized dimension)と呼ばれている.

事実,Zδ(0)が集合Xを覆うために必要な箱の数に他ならないことに 注意すると, limδ→0 - logZδ(0)/logδ, すなわちD(0)はμのサポートのボックス次元を与える.

また,D(1)は,q→1の極限を取ることによって

(3-3)
と書け,確率分布の平均情報量のスケーリングに関係した次元であることから, 特に情報量次元(information dimension)と呼ばれている.

自己相似図形ではD(q)がqに依らず一定となるが, μがさらに複雑な構造を持つ場合にはD(q)がqに依存する. このようなμはマルチフラクタル(multi-fractal)と呼ばれ, D(q)はqの単調減少関数となる.

fーαスペクトル

マルチフラクタルな集合は,以下で述べるように,異なるフラクタル次元が 分布しているような集合とみなすことができる. まず,測度の局所的な特異性を表わす指標として 0<α<∞であるような指数αを導入する. ここで,ボックスのサイズδ=|Bi|について局所的なスケーリング

(3-4)
が成立し,指数αを持つようなボックスの数もまた δに対して Nδ(α)〜δ-f(α) でスケールするものと仮定する. すなわち,αで特徴付けられるようなXの部分集合のフラクタル次元が f(α)である. このとき分配関数Zδ(q),積分変数を変換して
(3-5)
と書ける.

δ→0では,この積分の値は指数部分が最大となるようなα での寄与が支配的になると考えられるため,

(3-6)
でτ(q)を定義すると,
(3-7)
これを一般化次元の定義式(\ref{eq:generalized-dimension})と見比べることによって
(3-8)
が導かれる.

ここで,f,αの微分可能性と,f(α)が αの凸関数であることを仮定する. f(α)ーqαが極大となる条件から

(3-9)
これより
(3-10)
が言える.すなわち,f(α)の勾配はモーメントqを与える.

また,τ(q)=f(α(q))ーqα(q)をqで微分して

これに(3-10)式を代入すると
(3-11)
が得られる.

f-alpha spectrum

これらの一連の変換は分配関数Z(q)から,ヘルムホルツの自由エネルギー τ(q)を求め,ルジャンドル変換によって内部エネルギーαと エントロピーfに変数変換する統計力学の手続きそのものである. 一般に分布(測度)の局所的なスケーリング関係(3-4) から出発してf(α)を求めるのは困難であるので, τ(q)を経て上記の手順によってf(α(q))を求めることが多い.

fのα依存性はfーαスペクトルと呼ばれており,カオス アトラクタの構造のような複雑な確率分布を特徴付ける際に使われる. fーαスペクトルの一般的特徴を以下にまとめる(図を参照).

  1. q=0で最大値を取るような上に凸の曲線であって,D(0) = f(α(0)).
  2. q=1で直線f(α) = αに接し,D(1) = f(α(1)) = α(1).
  3. limq→ー∞ D(q)はαの上限を, limq→∞ D(q)はαの下限をそれぞれ与える.



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© Yoshinori Hayakawa (1998)