Pythonプログラミング(ステップ5・多重ループ)

このステップの目標

1. 多重ループ構造を持つプログラムの基本動作

アルゴリズムを記述しようとすると、ある反復処理をさらに反復するような繰り返し構造、言い換えると、多重のループ構造になるケースは多い。 多重ループは、少ない指示(プログラムの記述量)でコンピュータに沢山働いてもらうための定石、とも言える。 そんな例のひとつとして、次のプログラムの動作を考えてみよう:

for i in range(1,4,1):
   for j in range (1,4,1):
      print("i=",i,"j=",j)

「外側」のforループ(ループ変数i)で反復している内容は、ループ変数jについての内側のfor文

for j in range (1,4,1):
  print("i=",i,"j=",j)

である。そうすると、まずiが1の状態で、内側のfor文が実行され、jが1から3までカウントアップされる。 それが終わると、次にiが2になった状態で、再びjが1から3まで・・・・、という処理が繰り返される。

この様子をまとめると、それぞれのループ変数の動きは以下のようになる:

i=1 j=1    外側のループの1回目 内側のループの1回目
i=1 j=2                      2回目
i=1 j=3                      3回目
i=2 j=1    外側のループの2回目 内側のループの1回目
i=2 j=2                      2回目
i=2 j=3                      3回目
i=3 j=1    外側のループの3回目 内側のループの1回目
i=3 j=2                      2回目
i=3 j=3                      3回目

こうした変数の変化を言葉で表すとすると、内側のjが外側のiよりも「はやく」(あるいは「先に」)動いている、 と言えるだろう。 この例に限らず、

多重ループは内側のループ変数が『先に』(はやく)」回る

と言える。

試しに、上のプログラムをほんの少しだけ改変して(内側のループの継続条件に注目)

for i in range (1,4,1):
   for j in range(1,i+1,1):
       print("i=",i," j=",j)

とすると、こんどは出力が

i=1 j=1    外側のループの1回目 内側のループの1回目
i=2 j=1    外側のループの2回目 内側のループの1回目
i=2 j=2                      2回目
i=3 j=1    外側のループの3回目 内側のループの1回目
i=3 j=2                      2回目
i=3 j=3                      3回目

となる。内側のforでは for j in range(1,i+1,1): となっているので、 反復回数は変数 i が示す値になるわけだ。 この例のように、内側のループ変数の動く範囲を、「外側」のループ変数で制御するパターンもしばしば登場する。

"カウンター・プログラム"

右のプログラムを実行すると

000
001
002
...
998
999

のように表示される。

ループは何重でも入れ子にする(ネストする)ことができる。 実用的な意味はないけれども、000から999までを一気にカウントアップしながら表示 するプログラムは、以下のように書けるだろう。一番下の桁が、一番内側のループ変数に対応している点に注意:

# coding: utf-8
for d2 in range(0,10,1):
    for d1 in range(0,10,1):
        for d0 in range(0,10,1):
            print(d2,d1,d0,sep="")

† 上のコードで、print()文中のsep=""は、複数の項目をプリントする際に入れられる区切り文字(通常は空白1つ)を「空」にするための指示。

三角形を表示するプログラム

多重ループを使って、画面上に * を並べて三角形を表示するプログラム例を以下に示す。

例題5(ex5.py)
shakyou

# coding:utf-8
for i in range(0,30,1):
   for j in range (0,i,1):
       print("*",end="")
   print()

† print()中の end="" は、出力後の改行を禁止するための指示。

例題5のアルゴリズム
Input:
Output: *でできた「三角形」
1: 整数 $i$ を0から29まで、1ずつ増やしながら、6:までを反復する:
2:    整数 $j$ を0から $i-1$ まで、1ずつ増やしながら 4:までを反復する:
3:       "*"をひとつ出力する
4:    内側の反復ここまで
5:    改行する
6: 外側の反復ここまで
7: 終了する

プログラムの構造は、ijをループ変数とする二重ループになっている。 内側のループでは、アスタリスクを i 回プリントしており、おしまいに「改行」を出力している。 外側のループでは、アスタリスクの個数に対応する変数 i が、0, 1, 2, 3,... ,29まで、順次変化する。 その結果、行あたりの * の個数が順に増えて、三角形に見えるわけだ。

icon-pc 練習:三角形のバリエーション

     *
    **
   ***
  ****
 *****
******
...

以下の点について、頭の中でまず予想し、次いで、実際にプログラムを動かして確認してみなさい:

tfield-icon亀場で練習:正6角形の繰り返し

tfield-six-hexagons

タートルグラフィックスのページのページに紹介されている図形の例のうち、正6角形をずらして重ね合わせてできる図形を二重ループを使って描くプログラムを作成しなさい。

icon-hint ヒント

6角形の角度を60°ずつ変えながら、6回描けばよい。

tfield-six-hexagon-hint

2.二重ループを使った計算

少ない指示で計算機に沢山働いてもらう例として、素数のリストを作成するプログラムをここで作成してみよう。

そのために、まず、ある数nが素数かどうかを、プログラムで判定する方法を考えてみる。 素数とは、自分自身と1以外では割り切れないような自然数だから、最も愚直なやり方は

整数 $n$ が、2から $n-1$ の範囲の全ての整数で割り切れるかどうか順に調べ、割り切れた回数を数える。 もし、割り切れた回数(約数の数)が0だったら $n$ は素数である。

となるだろう。約数の個数を数え上げるには、もちろん、「総和のパターン」を使えばよい。

素数のリストを作成するには($n=1,2$ は自明だから、$n=3$ から始め、$n=1000$ の範囲まで調べるとすると)、 次のような手順で計算を行えばよいはずだ。 ここで counter は、総和のパターンに従って約数の数を数え上げるために使う変数名とする。

1000以下の素数のリストを得るためのアルゴリズム試案

nを3から1000になるまで1ずつ増やしながら、以下を繰り返す:
   counterを0にセットする
   mを2からn-1になるまで1ずつ増やしながら、以下を繰り返す:
      もし、nがmで割り切れれば(約数が見つかったので)counterを1つ増やす
   mについての反復ここまで
   もし、counterが0なら、(約数の個数が0、つまりnは素数なので)、nの値をプリントする
nについての反復ここまで

つまり、プログラムの基本骨格は、nについてのループの中に、mについてのループが入り込んだ 二重ループ構造となるはずだ。 ここで、nが変化する都度、counterを0にセットしなければならない点にも、注意が必要である (さもないと、「以前」のnについてのcounterの値を引きずってしまう)。

icon-pc 練習:素数探し

上に述べた手順に沿って、3から1000までの範囲で素数を探索し、一覧をプリントするプログラムを作成しなさい。

単にリストが表示されるだけではなく、「ヒント」を読んで、明らかに無駄な計算をしない工夫をプログラムに施すこと。

icon-hint ヒント

割り切れるかどうかのチェック

nがmで割り切れるかどうかを確認する作業をPythonで記述すると、以下のようになるだろう(プログラムの一部分):

n=調べたい数
for m in range(2,n,1):
    if n%m==0: 
    	print(n,"は",m,"で割り切れた)

ここで、 n%m は「$n$ を$m$ で割った余り」である。つまり、条件文 if n%m==0: は、 「$n$ が $m$ で割り切れたなら(余りが0に等しければ)」という意味になる。

念のため、全体のプログラムのひな形を以下に示す:

# coding: utf-8

for n in range(3,1001,1):
	for m in range(2,n,1):
		????
		????
		????
	?????
	?????

さらなるチューニング

上で述べた方法は、あまりスマートとは言えない。 というのは、全ての $n$ ごとに、2から $n-1$ までの $m$ について割り切れるかどうかを調べているからだ。 もしも $n$ の約数となる $m$ が1つでも見つかったら、その時点で $n$ が素数ではないことは分かってしまう。 なのに、その先の $m$ についても調べ続けるのは、明らかに無駄である。

ある条件(この場合は「割り切れた」)が満たされたことが分かったら、そのことを示す「印」を残して、反復を直ちに止めるうまい方法がある。 変数(フラグ)と break 文を組み合わせるやり方だ。 その基本的なパターンを以下に示す。

$m$ を順に変えながら、($m$ に関係した)「条件」にマッチするかどうか、探索するプログラムのパターン。

	flag=0  # フラグをクリアしておく
	for m in range(から,まで+1,1):
	    if 条件:
	        flag=1   # フラグを立てて 
	        break    # ループを抜ける
	
	if flag==1:      # フラグの値をチェック 
	   print("条件に合致するmが見つかりました") ;
	else:
	   print("条件に合致するmは見つかりませんでした")

break文

ループの中のif文の中で現れる break; は、for文の説明(無限ループ)でも登場した文で、「現在のループから脱出し、次のステップに移れ」という指示である。 この例では、if文の条件が満たされれば、mが1000を超えるのを待たずに、ループの外(if flag==1:...以降)に抜ける働きをする。

フラグの活用

一方、変数flagは、条件が満たされたかどうかを保持する役割(flagは旗を意味)。 条件が満たされてループが終了したのか(flag の値は1)、あるいは、$m$ が「まで」に達したためにループが終了したのか(flag の値は0)、を区別するためだ。 最初に0にセットしておいて、「条件」が満たされた場合のみ1にセットする、という動作がミソである(条件が満たされなければ0のままである)。

「約数のカウントアップ方式」から、「約数が見つかったら打ち切る方式」にプログラムを改造するのは容易なので、ここまでを、この課題の要求水準とする。

その他の効率化のヒントを以下に挙げる:

2以上の偶数は素数ではないことは明らかなので、そもそも調べる必要がない。

$n$ が約数 $m$ を持つ(すなわち $n = k \, m$)とすると、明らかに $m$ は $n$ の平方根よりも大きくなることはない。つまり、ある数 $m$ で割り切れるかどうかの判定の際、$m \le \sqrt{n}$ の範囲だけ調べれば十分。$n,m \gt 0$ だから、この不等式は $m^2 \le n$ と等価。つまり、平方根を実際に計算する必要はない。

さらに効率的に素数をリスティングする方法として、エラトステネスのふるい(Sieve of Eratosthenes)と呼ばれるアルゴリズムが有名だ。 また、大きな数が素数かどうか「当たりをつける」ための良く知られた方法にフェルマーテスト(Fermat primality test)がある。 これらをキーワードに、ウェブ等で調べてみるとよい。大きな素数を探すこと自体が数学的な(意味のある)チャレンジであり、 素数を効率的に見つける方法を巡って、奥の深い探求が続けられている。

icon-pc 練習:Vièteの式の評価

Viète's formula として知られる $$ \frac{\sqrt{2}}{2} \cdot \frac{\sqrt{2+\sqrt{2}}}{2} \cdot \frac{\sqrt{2+\sqrt{2+\sqrt{2}}}}{2} \cdots = \frac{2}{\pi} $$ を、実際に上式の左辺を数値計算して確認するコードを作成しなさい。

icon-hint ヒント

根号の部分を計算するループと、各項の積を順に計算するループの、2重ループで表現するのが自然であろう。

$2/\pi = 0.636619772367581342 \cdots$



© Yoshinori Hayakawa