木と紙と土の家

木と紙と土の家

1999年の暮れに、我々夫婦に一つの幸運がもたらされた。といっても、そんなたいそうなことではなくて、商店街の歳末セールのくじ引きで、見事温泉旅行を引き当てたのだ。商店街の事務所で渡された宿泊券の温泉宿は、蔵王の山麓に位置する、この辺りでは名の知れた旅館であった。

仕事の都合などもあって、実際に温泉に出かけたのは翌年になってからだった。自宅から温泉地までは、車を飛ばせば1時間ほどの距離なのだけれど、夕方に出かけて翌朝帰るのではあまりにも慌しいというので、午前中に白石市(宮城県南部の中心地)まで行って、そこで少し観光することにした。

白石というと、「うーめん」という、ソーメンを短く切ったみたいな食べ物が(有名といえば)有名だけれど、その他は別段見所もなさそうな感じで、我々もあまり期待しないでその地に到着したのだった。とは言っても、(多くの地方都市がそうであるように)そこは歴史のある城下町で、当時の城を再現して、観光コースのひとつにしてあったり、歴史資料館みたいなのも併設されていたりと、その方面に興味のある人ならば、結構楽しめるのかもしれない。

我々も、定型的な観光コースに沿って、お城−>資料館−>ご休憩所と来て、次に昔の侍の家を見学した。木と紙と土でできた、古い家だ。身分のある侍の家ではなかったらしく、とてもこじんまりとした、今でも中で誰かが傘貼りでもしていそうな、小さな家。遠野などで見た農家のほうが、建築物としてはよっぽど立派だ。

冬の陽はすでにかなり傾いて、庭木が家の土壁に影を落としていた。


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