ひょんなことから妻が自転車を手に入れた。 普通のママチャリなのだけれども,ヨーロッパの自動車メーカーのマークが入っているので,一応は「外車」ということになる。 我が家で外車を所有するのは初めてのことなので,転倒して傷をつけたりはしないかと妙に気を遣う・・・・訳はないけれど,何故かその自転車には傷を補修するためのペイントが同梱されていた。
ママチャリにカゴは必須である。にもかかわらず,スタイル重視のためか,この外車にはカゴが備わっていなかった。 そこで近所の自転車屋まで,妻は自転車で,僕はその後を歩いて,カゴを取り付けてもらいに出かけることになった (これじゃ僕は散歩の犬みたいだ)。
その自転車屋に入るのは初めてだったので,我々は少し緊張していた。 というのも,外から見るとプランターや何やらがウィンドウに飾り付けてあるばかりで,そもそもそこが本当に自転車屋なのかどうか,確信が持てなかったからだ。外の小さい看板に,某自転車メーカーの名前が小さく掲げられているのみだ。
少し暗い店内には,確かに自転車が沢山並んでいて,夫婦と思しき中年の男女が何やら熱心に作業している。パンクの修理だろうか。そして,僕には全く気づく様子がない。
「すいません・・・」と声をかけたが,男のほうはこちらを一瞥しただけで,何も言わずに作業を続けていた。 どちらかと言えば僕に近い側にいた女性のほうが 《こんなタイヘンなときに一体何だっていうのヨ・・・》 といった感じで我々に応対。
「あの・・・ これにカゴを取り付けたいんですけれど・・・」
と言うと,
「あっ・・・うーーん,・・・こりゃだめだ・・・」
みたいなことを繰り返すばかり。 どうやら,カゴを取り付けるための金具の在庫が無いらしい。 それにしても,カタログを調べるでもなく,客が諦めるのをひたすら待つという作戦らしかった。 「こりゃだめだ」は,むしろこちらのセリフだ。 しかたなく家まで戻って自転車をしまい,団地の周りを二人で散歩することにした。
まだほとんど家が建っていない新しい(と言っても造成されてから数年にはなる)住宅団地の交差点には,中学生のイタズラか,事故現場のような人型が描いてあった。