空き缶

ゴミの分別回収がはじまってから,かさばるゴミがどんどんとたまるようになった。 そこで,日曜大工で大きめのゴミ箱をこしらえて,プラスチックのトレイや空缶は収集日までそこに放り込んでおけるようにした。 けれども,部屋も,本棚も,パソコンのハードディスクも,いずれは「ほぼ満杯」で使われる。 その特大ゴミ箱とて例外ではなかった。 毎晩のように飲んだビールの空き缶で溢れそうだったので,潰してスペースをこしらえることにした。 最初はゴムハンマーで叩いていたけれども,意外と手間がかかるので,最後はひとつずつ足で踏みつける。 じきに額に汗が滲んでくる。 

まだ大学院生のころの夏休み,1年年下のN君と一緒にアメリカにでかけた。 当時シカゴ大に長期出張していたSさんのところに転がり込む予定だったのだ。 二人ともはじめての海外旅行だったので,ひどく緊張していた。 成田まで彼のご両親が見送りに来られ,餞別までいただいたことを今でもよく覚えている。

そして,つい数日前,そのN君の葬儀で,ご両親と再びお会いすることになった。

シカゴのSさんは,学生が共同で住んでいるアパートに空き部屋を見つけてくれて,そこでN君と一ヶ月ほどを過ごすことになった。アパートのすぐ前の公園で,ジョギング中の日本人がちょっと前に殺されたのだと,Sさんは割とあっけらかんと僕らに教えてくれた。

暖炉のある部屋では,シカゴ大の学生が大きな木槌で空き缶潰しをしていた。 念入りに空き缶を潰しながら,英語がうまくしゃべれない僕らの相手をしてくれたっけ。

単調な作業のあいだ,そんな昔のことが,次々と思い出された。


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